文化の日が、期せずして仕事と食の日になった先週。今週こそ文化的に過ごそうと、美術館に出かけることにしました。「芸術の秋」は、日本各地で美術展がたけなわ。なかでも、フェルメールの展覧会は、ぜひとも観たいところ。
この秋は、神戸と福岡にフェルメールの絵が来ています。このうち福岡に来ている作品は、東京と九州だけでヨーロッパはベルリンに戻ってゆきます。東京も福岡も遠いけど、ベルリンはさらに遥か・・・
ここは一念発起、福岡まで観に行くことにしました。
ついでに九州周遊旅行でも出来れば理想ですが、先月東北と信州に1週間を費やした我々。時間も資力も倹約モード
土日だけで、どうやって行こうかと新幹線やらピーチアビエーションやら検討していると、Takaが「飛行機は嫌っ
新幹線も早割はもう発売期限過ぎてるし、宿も入れるとお高いし。高速
日帰り、これより経済的なものはない
」とのたまいます・・・いくら助手席で寝ている、もとい座っているだけのElliも、さすがにこれは全力で避けたい
全力でネットを徘徊すると、新幹線と宿のセットで、2万弱で収まるプランを発見。Takaに見せると、やはり運転片道5時間もの日帰りは負担だったのでしょう。即、予約を入れました。
そして、当日。新大阪駅に行くと、九州新幹線の「さくら」が停まっています。ネットで見た、九州新幹線開通の幻のCMが頭に浮かんできます
。いつか、乗りたいな~。我々は、8時21分発ののぞみで出発。これまで車で何時間もかけて、大阪から中国地方を越えて九州まで辿り着いていた道のりが、2時間でなんだかあっという間。あっけなく、しかし快適に博多駅に到着です。
駅を出て、中洲のホテルに荷物を預け、そのまま福岡見物を兼ねて、昼食にと調べていたラーメン屋まで歩きます。途中、川沿いの天神中央公園や、天神の繁華街を抜けます。公園には旧中央公会堂貴賓館という洋館があったり、アクロス福岡という、階段上になった壁面が一面に緑化された会議場やホールの入ったビルがあったり、文化的かつ先進的。天神周辺は、垢抜けたデパートや高級ブランド専門店の入ったアーケードが連なり、とっても華やか。天神から警固という地区に出ると、これまた大きな道にお洒落なブティックやレストランが続いています。なんか、大阪よりお洒落?
お目当てのお店、秀ちゃんラーメンに着くと、私たちの次で満席になり、ギリギリセーフ
ラーメンは、豚骨の旨味たっぷりなのに、口当たりはすっきり、細い麺は腰(?)があるのに、すべすべ滑らか。ラーメンとは、かくも洗練された食べ物だったのでしょうか。餃子も香ばしく美味
福岡の食のレベルを思い知りました.
欅並木が色付き始めた、文字通り「欅通り」を歩き、福岡城跡へ。一帯は、大濠公園として整備され、日本庭園や福岡市立美術館があります。緑豊かな公園をゆっくり散歩するのもいいですが、曇りがちのお天気。 それなら、今回の旅のテーマ、芸術の秋を極めようと、福岡市立美術館で開催中の「大英博物館 古代エジプト展」(芸術
と言うより、歴史
)を見聞することにしました。

大英博物館が誇るエジプト関連の戦利品、もとい収蔵品から、世界最長の37mにも及ぶ「グリーンフィールド・パピルス」をはじめ、古代エジプトの死生観を表した「死者の書」の他、棺、ミイラ、護符、装身具などの副葬品が来日し、古代エジプトの死後の世界が一通り理解できるようになっています。
中心となるパピルスの絵巻「死者の書」は、亡くなった人が死後の世界に入り、数々の難所と関門を乗り越え、無事天国へ辿り着くまでの指南書。襲いくるワニや蛇を追い払う呪文や、神の館で受ける最後の審判の手順などが書かれています。
人面に鳥の体をした死者の魂や、鳥や動物の頭をした神様も楽しいですが、何より面白いのは、「罪の否定告白」を、それを乗り切るための呪文。最後の審判で死者は神々の前で、罪の告白ならぬ、「罪の否定告白」をします。生前に犯してはならない罪が42種類あり、その全てを犯していないことを神の前で告げます。
曰く、「盗みをしなかったこと」(買い置きしたお菓子の盗み食いもだめ?)「人をだまさなかったこと」(嘘も方便は通用しない?)「悪口を言わなかったこと」(姑などの・・・以下略
)」 ここで嘘の告白をしても、心臓を天秤にかけられ、正義の女神の羽根と釣り合わなければ悪事を働いていた証拠となり、アメミトなる怪物に心臓を食べられ、真の終幕となります。う~む、Elliなぞ、かる~く心臓を怪物に食べられて終わりそう
こんな告白を考えるとは、古代エジプト人はさぞや品行方正、清廉の士と思いきや、続きの展示をみて、仰天
なんと
、天秤での心臓計量で心臓が自分を裏切り、不利に働くのを防ぐための呪文があるのです。なんとも人間くさいというか、お茶目というか、人は古今東西皆同じというか
。思わずほっとして(?)てしまいます。
最後の審判をめでたく乗り越え、「イアルの野」の楽園に辿り着いた死者は、農耕に励み、日々を送ります。晴耕雨読
健全で、いいじゃないですか~、と思いきや、古代エジプトの民は、ここでも現世的人間らしさ全開。王様をはじめ、裕福な人は「シャブティ」なる召使いの人形をこしらえて墓に入れ、来世へとお供させ、イアルの野での畑仕事をこれに任せるのでありました・・・
う~む
人は、時代と場所が変わっても同じ。はるか時空の彼方の人々に、大いに親しみを持てる、愉快な展覧会でした。
最後にミイラの棺に入ってパチリ
これで、来世は悠々自適?

美術館を出て、公園の真ん中に広々と横たわる大濠池をしばし散策。
池にかかる橋を歩いて、公園の北側へ。「死者の書」が呼び寄せるのか、曇天のせいか、なぜか烏がいっぱい
時刻は、4時前。暗くなるまでまだ時間があるので、福岡市立博物館に行ってみることにしました。
地下鉄もありますが、せっかくなので町の様子の分かるバスに乗ってみます。福岡シティループバスという、観光名所を網羅した緑色のバス。車内では沿線の紹介放送が流れ、よく分かります。
市立博物館も、ガラス張りの立派な作り。

ここには、「漢倭奴国王」の金印があります
。常設展では、古代から現代まで大陸への玄関として栄えた福岡の反映と歴史を語る品が、押し合いへし合いのように並んでいます。閉館まで1時間足らずで、じっくり見られないのが残念。
所狭しと押し込められた史料と考古遺物のなかで、国宝の金印は専用のガラスケースに一つだけ、大切に展示されていました。それは、思ったよりずっと小さく、長さ一辺2.3cmほど。TakaもElliも教科書の写真で、勝手に4~5cmくらいのものを想像していたので、なおのことしげしげと見入ってしまいます。小さくも、波濤と時間を越えて伝わった金の印は、その威光を語るがごとく重厚な輝きでした。
ホテルに戻り温泉に入ってから、夜は中洲から川を渡ってすぐの天神中央公園脇のめんたい重へ。
丁寧に、品良く造られた郷土料理はどれも美味
。 お昼のラーメンに続いて、福岡の食の水準の高さを実感。店を出て、中洲を少し散策。川沿いに、名物の屋台が並んでいます。小雨でも、威勢の良い呼び声にどこもお客さんでいっぱい。屋台から庶民的なお店、お洒落な高級店まで、この競合が福岡の美食を生むのですね。恐れ入りました。
食も文化も町の作りも、水準の福岡。その都市力に圧倒された、旅の初日でした。

めんたい重で食した、その名も「明太重」 おいしゅうございました。
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